ホーム / ファンタジー / こちらギルドの調査員 / 第43話 陰謀ってやつは俺を休ませない3

共有

第43話 陰謀ってやつは俺を休ませない3

作者: 月城葵
last update 公開日: 2026-06-25 05:36:58

 課長の言葉で話は一区切りついた。

 どうせ逃げられないのは、わかってる。

 ならせめて……。

 ってことで、場所は変わって夜の食堂。

 腹が減ったんでな。

 腹が減っちゃ、頭も回らないってことだ。

 夜の食堂には肉と酒の匂いが充満して、冒険者たちの笑い声が響いていた。

 ……さっきまでの陰鬱な話とのギャップで、胃が余計に痛ぇ。

 ジョッキ片手にナックが口を開いた。

「なぁアル。俺思ったんだけどよ……」

「どうした?」

「調査員って、人員が少なすぎじゃね?」

「やっと気付いたのかよ」

 そこはもっと早く気づいとけ、ほんとに。

「冒険者ギルド……いや、もうハンターズか。別れてから、十年は経つんだろ?」

「そうだな」

「冒険者もいい加減、ハンターって名乗ればいいのにな」

 ……そ

この本を無料で読み続ける
コードをスキャンしてアプリをダウンロード
ロックされたチャプター

最新チャプター

  • こちらギルドの調査員   第62話 なげぇ二秒の話4

     俺は素早く印を結ぶ。 指先が震える暇もなく、覚えた形を次々と組み合わせていく。  霧の森の湿った空気が、掌の熱に反応してざわつくのがわかった。 霧の魔女の神話めいた言葉。 「掛けまくも畏き、常闇の淵に坐す荒御魂の神よ……」 言葉が霧に溶けていき、木々の間を這うように広がる。「千代に潜みて人の嘆きを糧とし、万代に囁きて血を欲したもう御身。 祓へ給へ、清め給へ――されど、その祓いは命を贄とし、 その清めは魂を削りて成すものなり」 紡ぐ言葉が終わるたびに、地面の震えが少しずつ大きくなっていくのがわかる。 霧が震え、葉がさざめき、遠くで怯えた獣が一声上げた。「ここに我が血を以て枷を解き、我が声を以て門を叩く。 枉れる鎖を断ち、虚無の扉を穿ち給へ」 神父の顔に、初めて——本物の驚きが走るのが見えた。 彼の口元がぴくりと動き、何かを否定するかのように手を上げる。 だが、いまさら言葉を重ねても遅い。  俺がここで出した符印と声は、もう後戻りできないところまで魔を呼んでいる。  ……ほら、祈れよ。お前の信じる神ってやつに。 「闇より這い出で、災厄を連れ、我が呼び声に応え給へ――」 やがて霧が濃密になり、視界が滲む。  光が吸われていくかのように、周囲の色が抜け落ちていく。 音が止み、静寂が辺りを包む。 それは、何かが来る合図。 霧の中心から黒い穴のような影がひとつ、ゆっくりと姿を現した。 形容し難い生物の輪郭が、吸い込むように周囲の霧を引き寄せる。 轟きながら、刃にも牙にも似た無数の口が重なり合う。  まるで、生きた深淵が這い出してくるようだ。 「来い、食らう者よ――」  俺の声

  • こちらギルドの調査員   第61話 なげぇ二秒の話3

    「随分と手の込んだ仕掛けだったな?」 「ええ。何年も前から準備していた――大事な儀式だったのですよ」 大事な儀式、ね。  鼻で笑いたくなる言い草だ。「一体、何を呼ぼうとしたんだ?」 「そこまで知っているのですね」 「ああ、うちにも優秀な奴がいてね」 ゼットの顔が脳裏をよぎる。  やっぱり、あの推測は当たってたか。「セイラム聖王国が神と呼ぶ存在……本当に神だと、あなたは思っているのですか?」 ……なんだ? いきなり説教か?「さぁな。神様なんて、そこら中にいるんじゃねぇか」 「……素晴らしい考え方ですね」 あ、肯定されちまったよ。  こっちとしては軽口のつもりだったんだが。「別に神は唯一神のみではない。他にも多く存在するのです」 「へぇ~、それで?」「それを信仰することを、聖王国は許さない……これは間違っていると思いませんか?」 「まぁ、言わんとすることはわかるぜ」 神父の言葉は妙に滑らかで、耳に入ると理屈が通っているようにも思える。 ……だからこそ、厄介なんだよな。「それなのに、他の信仰を異端と断罪し、裁くのです」 「まぁ、そうだな。よく聞く話だ」 「でしょう? だから、正すのです。我々の手で」 ……ふーん。 つまり、どんな犠牲も厭わないって話か。  考えるだけで、自分でも寒い気分になる。「なら、それで巻き込まれた罪のない人々はどうするんだ?」 問いに、神父は少しも躊躇せずに答えた。「必要な犠牲です」 その言葉は、まるで最も当然の理屈のように霧の空気に溶け込んだ。  俺は目の前の人物が

  • こちらギルドの調査員   第60話 なげぇ二秒の話2

     蛇の口から飛び散る毒液を、大きな木を盾にして身を隠す。  シュゥゥッと、草木が焼け焦げる音がする。 ……さて、周りの魔物が寄ってくる前に片をつけねぇと。 バジリスクの前足が振り下ろされ、大木が音を立ててへし折れた。 霧がその衝撃で渦を巻く。「俺な、この森だと調子いいんだよ。お前に負ける気がしねぇっ!」 地を蹴った瞬間、視界が一気に近づく。  間合いを詰め、まずは厄介な蛇の尾――尻尾を一振りで切り落とした。 しかし、たじろぎもせず、バジリスクの目が妖しく光った。  石化の眼差し。「やらしい目だな」 軽口をたたきながら、即座に距離を取り、地面に手を突く。  魔力を地面に流し込み、鋼鉄のように強化した土壁を目の前に立ち上げた。「いち、に、さん……」 光が壁を叩き、石化の気配が背筋をぞわぞわと這い上がる。  だが、盾の影がふっと軽くなった。  バジリスクの光が消えた証拠だ。「よん、ご、だっ!」 土の盾から飛び出し、一直線に首筋を狙う。  空中で体を捻り、遠心力を乗せた一撃を太い首に叩き込んだ。 切断とまではいかないが、バジリスクの首筋に深々と傷が走り、血飛沫が散った。 巨体がよろめき、呼吸は荒く、ほぼ瀕死だ。 ……あの血がやばいんだよな。 触れたら猛毒。  生きてても、死んでも厄介なのがこいつの特徴だ。 本当は一息に仕留めるつもりだったが、どうも俺の剣は鈍ったらしい。 鍔元にべっとりついた返り血を見て、苦笑する。 バジリスクは苦しげに頭を下げながらも、なおギラつく目でこちらを威嚇していた。 バジリスクと睨みあっていると、突如、横から巨大な影が横切った。

  • こちらギルドの調査員   第59話 なげぇ二秒の話1

     霧の森へ向かうと決まってからは、準備に忙しい。 タマ婆さんからはマジックポーションやら閃光玉やら、持てるだけ持たされた。 ……遠足に行くんじゃねぇんだぞ。 テッタからは、特製弁当。  ジョナスからは、ニヒルなスマイルをいただきました。 ……初めてのお使いか、俺は。「頼んだぞ」 課長が真剣な眼差しで送り出してくる。「守りは心配するな」 ガーの親分がニカッと笑った。  その顔に、妙な安心感があるのが悔しい。「忘れねぇからな……」 ナックが鼻水垂らしながら言う。  おいおい、葬式みたいにするな。「んじゃ、いってきま~す」 なんとも締まらないけど……まあ、俺らしいっちゃ、俺らしい。 ◇ ◆ ◇ 馬に跨り、一気に南へ駆け抜ける。  時間の猶予があるのかはわからない。  今は、とにかく急ぐだけだ。 ……もってくれよ、お馬ちゃん。 風を切って走る。  そういうと気持ちよく聞こえるが、なんとも心地の悪い風だ。  生温いというか、血生臭いというか……。 そんな感想を抱きながら、丘を駆け抜け南の村へ。 ここからは徒歩だ。  馬を繋がず、たてがみに手をやって語り掛ける。「危なくなったら、逃げるんだぞ」 馬が当たり前だろ、と言うように嘶いた。 腰のポーチからマジックポーションを取り出し、一口だけ含む。    喉を焼くような苦味が広がった瞬間、魔力感知を発動。「デカい魔力は無しっと」

  • こちらギルドの調査員   第58話 徹夜明け、即座に決まるスケジュール5

    「私も魔術師の端くれですが、街の危機と研究。どちらを取るべきかは、わかっているつもりです」 「ハ、ハクユウ殿……」 ウィザーズの職員が青ざめて声を失う。  さっきまで強情を張っていたのが嘘みたいだ。 ……さすがに、先生まで出てきちゃぁ、お手上げだろう。 俺は心の中で肩をすくめた。  これで研究バカ連中も、観念するしかない。 奥から、職員の一人がご丁寧に布にくるまれた鍵を差し出した。 課長はそれを受け取り、短く頷く。「よし。アル、戻るぞ」 課長の声が飛ぶ。  俺も頷いて踵を返そうとしたとき、後ろから呼び止められた。「アル、気をつけるんだよ」 ……おいおい先生。俺が行くこと前提みたいに言わないでくれ。 振り返れば、ハクユウがにこりと笑って送り出していた。  あの穏やかな笑顔が逆にプレッシャーだ。 ため息をひとつ、俺は課長とともにウィザーズギルドをあとにした。 ◇ ◆ ◇  広場へ足早に戻ると、そこには食事を受け取る警備隊に混じって、ガーの親分の姿もあった。「おう、マルセル。どうだった?」 「ったく、最後まで強情に渡そうとしなかったぞ」 心底呆れた顔で、課長が肩をすくめる。「そりゃあな。あいつらはほんと、魔術にしか興味ねぇからな」 親分が鼻を鳴らした。 ……全く同感だ。 そう考えると、ゼットって元ウィザーズなのに柔軟な方だよな。  変人だけど、話が通じる分、ずいぶんマシに見える。「さて、どうするか?」 親分が、あぐらをかいて課長に尋ねる。

  • こちらギルドの調査員   第57話 徹夜明け、即座に決まるスケジュール4

     課長を探して、俺はウィザーズギルドへ向かっていた。 こうしている間にも、狂信者たちは悪魔召喚の儀式を着々と進行中かもしれない。    そう思うと、自然と足早になる。 ……ほんと、ロクなことしないよなアイツら。 中央通りから東に進めば、遠目でも目立つ塔が見えた。  空に突き刺さるようにそびえていて、窓は少なく、壁面はやたらに黒光り。    まさに「魔術師が住んでいます」って自己主張している建物。 こういうの、普通の人間からしたら威圧感バッチリなんだろうが……俺からすると、趣味悪い石細工にしか見えん。 入り口には、装飾過剰な鉄扉。  両脇に立つ魔術師崩れの見張りは、ローブに袖を通しただけの青白い男どもで、目つきだけは、やたらと鋭い。 中に入れば入ったで、怪しい薬草と古紙の匂いが鼻をつくんだろうな、と想像できる。 いかにも魔術師が居そうな塔だよな。  まぁ、居るんだけどさ。 俺は深く息を吐き、鉄扉の前に立った。  さて、課長は居るだろうか。 鉄扉を押して中に入ると、すぐに空気が変わった。  埃と古紙の匂いに湿った石の冷たさ。  いかにも魔術師が集まってますって雰囲気だ。 で、次の瞬間――「だから言ってるだろっ! 研究などと、そんな場合じゃない。すぐに移送しなければ大変なことになるとっ!」 廊下の奥から、課長の怒声が響いてきた。 ……ああ、なんかやってんなぁ。「しかし、これは貴重な研究対象に……」 「この研究馬鹿どもがっ! 街を死の都にしてぇのかっ!」 言葉の応酬が壁を震わせて届いてくる。  俺は柱の陰に立ち止まり、頭をかきながらため息をついた。 ……間違いない。ウィザーズどもは今日も通常営業だ。

  • こちらギルドの調査員   第32話 初めての共同作業3

     あのアホ野郎!! おいおい、よりによってアンデッドに恨まれて逃げるとか、どんな業務だよ。「その裏切り者のナックと何か約束したのか?」 「ナック、ウソツキ。アルディン……アイツ、コロス……コロセ」 やばい。  完全に殺意が溢れ出してるじゃねぇか。「とりあえず、考えておくよ。それより――困ってたから、そのナックとかいう奴に頼んだのか?」 ラヴァナイトが、じっとこちらを見つめる。  ガイコツと凝視合戦って、傍から見たら間

  • こちらギルドの調査員   第3話 面倒事は勝手にやって来る1

     翌朝。 はい、今日も元気にお勤めです……いや、元気なのは街の方で、俺じゃないけどな。 ……また、ひどい顔だ。 鏡の中で、眠れぬ夜を引きずった目がこちらを睨み返していた。 黒い髪も乱れ放題。 どう見ても「仕事ができる人間」には見えないね。 支度を済ませて宿舎を出ると、すでに通りは人でごった返していた。 パン屋の小僧が火魔法で窯に火をつけ、大工は風魔法で木屑をぶっ飛ばしている。 向かいの主婦は水魔法で桶に水を張りながら、隣と世間話。 戦場じゃ殺し合いに使われる力も、ここじゃ炊事洗濯の延長。 便利だよなぁ。 俺の世界にも欲しかったよ。 で、石畳を抜けてギルドへ。 朝っぱ

  • こちらギルドの調査員   第2話 石橋を叩いて壊す者2

     自由都市ペテルの朝は、いつも騒がしい。 ギルドの大扉が開けば、酒臭い冒険者が二日酔いで転がり込み、その横で新米が「今日こそは!」と張り切って受け付けに並んでる。 受付嬢のカエデは笑顔でさばいてるが、目だけは笑ってない。 あれが本当の営業スマイルってやつだ。 奥の掲示板にはクエスト用紙がぎっしり貼られていて、どれも「ゴブリン討伐」「魔物の巣駆除」「護衛依頼」……。  毎度のことだ。 そんな喧騒を背に、俺は机で報告書をまとめている。 二十歳そこそこの若造が書き物してりゃ浮くのは当然だが、俺は調査員。  依頼の成否を判断するのが仕事だ。 ……まぁ、俺自身、周りと同じノリをや

  • こちらギルドの調査員   第1話 石橋を叩いて壊す者1

    「おらぁ、もういっちょ!」「グギィィィ」 逃げ惑う魔物を、後ろから容赦なく切り捨てる。 情けなんてかけている場合じゃない。「お前、逃げんなっ」 全力で投げた石ころが、ガツンッ! とゴブリンの側頭部を打ち抜く。「ギャッ!」「はぁ、キリがねぇ」 一体、何匹いるんだか。 反対側は、ナックが踏ん張ってるからいいとして……。 え? 何やってるかって? どっかの馬鹿な冒険者のせいで、絶賛、山の中をゴブリンと大運動会中だ。 定時は過ぎてんだけどな。 このまま帰ったら、ゴブリンじゃなくて、俺の首が飛びかねない。 だったら、やるしかないだろ?「こなクソォ~!」 ヤケクソ気味に森

続きを読む
無料で面白い小説を探して読んでみましょう
GoodNovel アプリで人気小説に無料で!お好きな本をダウンロードして、いつでもどこでも読みましょう!
アプリで無料で本を読む
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status